AI(人工知能)

GoogleのBardとは?SGEおよびBERTとの違い、ChatGPTとの比較も

AIチャットボットであるGoogleのBardは、試験開始当初は使い物にならないというような声が多く聞こえてきましたが、その時に比べて、この記事を書いた2023年7月時点ではだいぶ改善されました。

GoogleはBardとは別に、検索結果画面に表示するSGEを試験開始しており、また検索アルゴリズムにはBERTと呼ばれるAIアルゴリズムが用いられています。これらとの関係や、ChatGPTとの比較結果をご紹介したいと思います。

Bardとは?

GoogleのBardは、ChatGPTに対抗して2023年2月6日に発表、同年3月21日に試験提供開始、5月11日に日本でも試験利用できるようになったAIチャットボットで、生成AI(ジェネレーティブAI)を活用しています。Bardは日本語で「詩人」の意味です。過去の歌詞を学習することで新しい詩を生成する能力を持つところからこの名が付けられています。

Bardの利用方法

BardはGoogleアカウントでログインした状態であれば、無料で次のURLから利用が可能です。

Bard

ただし、組織でユーザーを管理できるGoogle Workspaceを利用している場合、組織の管理画面において、早期アクセスアプリが有効になっている必要があります。

早期アクセスアプリを有効にする方法

Bardにログインすれば、あと入力エリアに質問を入力するだけです。

生成AI(ジェネレーティブAI)とは?

そもそも、Bardに用いられている生成AI(ジェネレーティブAI)とは何か。

従来のAIは、既存のデータからパターンやルールを学習し、与えられた入力に対して予測や分類を行います。つまり、既存のデータを分析し、そのデータに基づいて特定のタスクを実行することに重点が置かれています。

一方、生成AIは、データを生成する能力に焦点を当てています。生成AIは、学習データからパターンや特徴を抽出し、新しいデータを生成することができます。これにより、生成AIは既存のデータに基づいて新しい情報やコンテンツを作り出すことが可能です。

また、生成AIは、確率モデルや生成モデルと呼ばれる手法を使用して、データの生成を行います。これにより、例えば画像生成ではピクセルごとの色情報や配置を生成し、音楽生成では音符やメロディの組み合わせを生成することができます。

なお、生成AIは従来のAIと組み合わせて使用することもあります。例えば、生成AIを活用して新しいデータを生成し、従来のAIモデルを使用してそのデータを分類や予測する、といった応用が可能です。

生成AI(ジェネレーティブAI)従来のAI
新しいデータや情報を生成する与えられたデータに基づいて予測や分類を行う
楽曲や画像、動画、プログラムのコード、文章など、さまざまなものを生成できる画像分類や自然言語処理など、特定のタスクに特化している
まだ発展途上だが、今後はさまざまな分野で活用されることが期待されているすでにさまざまな分野で活用されている

生成AIは、現時点においてもまだ発展途上です。

今後は文章生成に留まらず、さまざまな分野で活用されることが期待されています。例えば製造業では、生成AIを用いて新製品の設計や開発効率化がされています。金融業では、生成AIを用いてリスク分析や投資判断が行われ、医療分野では、生成AIを用いて新しい薬や治療法の開発に取り組まれています。

BardとSGEの違い

BardはAIチャットボットなのに対して、SGEは検索結果画面上に表示されるという違いがあるわけですが、用いられている技術にも違いがあります。Googleが持つAI技術のうち、Bardには「PaLM 2」と「MUM」が、SGEには「PaLM 2」が用いられています。

Bardは当初、Googleが開発してきた大規模言語モデル「LaMDA」を活用する形で発表され、その後、Googleによる別の大規模言語モデル「PaLM 2」への変更が2023年5月11日に発表されました。

「PaLM 2」は「LaMDA」および「PaLM」よりも優れた最先端の大規模言語モデル(LLM)であるとGoogleはしています。

一方でGoogleは、Bardへの「PaLM 2」採用と同時に検索結果画面に生成AIによる回答結果を表示するSGE(Search Generative Experience)を発表しています。

SGEは、「PaLM 2」とGoogleが2021年に発表した大規模言語モデル「MUM」を組み合わせて活用しています。「MUM」の特徴は、一つの質問に対して様々な情報を踏まえたうえで多角的に回答を提示するところにあります。

従来のGoogle検索エンジンに用いられているAI技術

MUMは従来のGoogle検索エンジンにもすでに用いられています。世界中に様々ある新型コロナワクチンの名称の特定にかかる時間を、MUM導入により大幅に縮小できたとGoogleは述べています。

Googleの検索エンジンに用いられているAI技術は次の記事に書かれています。

Google 検索を支える AI 技術

Googleの検索エンジンには、2015年に初めてAIが採用されました。それを「RankBrain」と呼びます。それまで、「食物連鎖で最上位の消費者は?」という検索に対して「消費者」という単語を拾って、ここで言う「消費者」が人とは限らないということは理解できなかったのが、「RankBrain」によって理解されるようになったのです。つまり、文脈、自然言語の曖昧さを理解したということです。

自然言語の対義語としてコンピュータ言語というのがあります。コンピュータ言語は曖昧さがありません。

a = a + 1;

と書けば、この意味は一意に決まります。

一方で自然言語は、

黒い目の大きな猫

について、以下の両方があり得るように、曖昧さを持ちます。

  • 「目が大きい、黒い猫」という意味
  • 「目が黒い、大きい猫」という意味

このようなことがあるので、会話の中で勘違いが生まれることもあるかとは思いますが、人は次のような観点で、できる限り勘違いを生まないように脳内で意味を特定しています。

  • 前後の文脈
  • 相手との関係性
  • 過去の出来事の記憶や経験
  • 発話者の顔色や表情
  • 周囲の人の雰囲気

2019年に「BERT」がGoogle検索エンジンに導入され、このような自然言語理解力が大きく飛躍し、単語の組み合わせにおける1単語の持つ意味の特定の精度が上がりました。
例えば、「薬局 誰か 受け取り」という検索における「誰か」が、本人以外の誰かが代わりに受け取るということを意味している、ということが理解できるようになったのです。
つまり「BERT」は単語を並べて検索するという検索エンジンにおいて活躍しているものとなります。

2021年5月にGoogle検索エンジンに導入された「MUM」は、BERTの1000倍も強力で、言語の理解だけでなく、言語の生成も可能になりました。よって、SGEには現時点、「MUM」も活用されています。

Googleが用いているAI技術の整理

ここまででご紹介した、Googleが独自に開発し活用しているAI技術を整理すると、次の表の通りとなります。

活用サービス活用されているAI技術
RankBrainBERTMUMLaMDAPaLM 2
検索エンジン××
SGE×××
Bard××××

BardとChatGPTの比較

ここでは、BardとChatGPTに同じ質問をした結果を比較して示します。ChatGPTは20ドルの有料版であるChatGPT-4を利用しています。

新しい情報に関する回答

ChatGPTはプラグインを利用しない限り2021年9月時点までのデータしか扱わないのに対して、Bardは最新の情報源を扱います。

例えば、2022年3月に開業したBringFlowerについて聞くと、以下のようになります。

Bard

Bardは明らかにBringFlowerを特定したうえでの回答をしてくれます。ただし設立年を間違ってます。ちなみに、今回は示しませんでしたが、以前Bardで同じ質問をしたときは、代表者名を間違えてました。どうも組織の情報は保持していても、個人の情報まではまだそこまで持ってないようです。Googleだから、Googleビジネスプロフィールの登録有無によって変わってくるのかな?とか勘ぐってしまいますね。

ChatGPT

一言で言うと、「2021年までしか知識がないから知らない」という回答です。

小難しい課題のアイデア出し

「今後IT化ビジネスのチャンスがまだ残っている日本の業界を教えて」と聞いてみました。この手のものは、BARDもChatGPTに近づいてきている感じはしていますが、まだChatGPTに軍配が上がるという印象です。

BARD

以下を具体例と共に挙げてくれました。

  • 医療・介護
  • 教育
  • 製造業
  • 農業
  • 観光
  • 小売業
  • 金融業
  • 物流業
  • 建設業
  • コンサルティング

他には?と聞けばまだ挙げてくれます。

ChatGPT

以下を具体例と共に挙げてくれました。

  • 医療業界
  • 農業
  • 教育
  • 建設業
  • 製造業
  • 物流業

他には?と聞くとさらに具体例も示してくれました。

創作

創作性を確認するため、「友情をテーマにした歌詞を書いて」とお願いしてみました。本当の歌詞っぽいのはChatGPT4でした。Bardは「詩人」なのに今のところ負けているようです。

Bard

ChatGPT

ちなみに、ChatGPT3だと次のように、少し創造性が低くなる感じでしょうか?

BardをAPIで利用するには?

BardのAPIはまだ利用できません。Bardに聞いてみると、開発中ということは言ってるので、たぶんそうなのでしょう。

所感

この記事は2023年7月に書いたものです。ChatGPTは参照データが古いので、まだ試験中でもあるBardには、今後の急速な発展を期待しているのですが、2023年10月、この記事を最初に書いて3カ月経った現時点では、その後の発展は見られません。2023年9月20日はDALL-E3という高性能な画像生成AIをOpenAI社はリリースしており、それに対してGoogleは、ようやくSGEに搭載を発表したという段階です。ChatGPTに対して、Googleはかなりの遅れをとったままです。

まとめ

BardとChatGPTはすみわけになるのか、どちらかに軍配が上がるのか。はたまた、好みで分かれるのか。そもそも、SGEとBardをGoogleは今のところ分けているので、SGEが正式に登場すれば、ChatGPTもBardも、両方ともそれほど使われなくなるという未来もあり得るかもしれません。

これからも目が離せませんね。

著者のイメージ画像

株式会社BringFlower
稲田 高洋(Takahiro Inada)

2003年から大手総合電機メーカーでUXデザインプロセスの研究、実践。UXデザイン専門家の育成プログラム開発。SEOにおいても重要なW3Cが定めるWeb標準仕様策定にウェブアクセシビリティの専門家として関わる。2010~2018年に人間中心設計専門家を保有、数年間ウェブアクセシビリティ基盤委員も務める。その後、不動産会社向けにSaaSを提供する企業の事業開発部で複数サービスを企画、ローンチ。CMSを提供し1000以上のサイトを分析。顧客サポート、サイト運営にも関わる。
2022年3月に独立後、2024年4月に株式会社BringFlowerを設立。SEOコンサルを活動の軸に据えつつ、AIライティングツールの開発と運営を自ら行う。グッドデザイン賞4件、ドイツユニバーサルデザイン賞2件、米国IDEA賞1件の受賞歴あり。